日刊  おっさんの人生これから大逆転だぜえ!(日本史+史跡+旅情報)

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戦争体験・証言聞き取り)特攻隊として出撃する直前に別れの盃に酒を注ぎ、幾人も見送った方が語る体験談

特攻隊として出撃する隊員達に、
出撃直前の最後の盃に酒をくみ、
そして特攻隊員を見送った人がいます。

2008年(平成20年)に当時85才だった松尾さんです。
今回はその貴重な証言を紹介します。

(兵役に合格できなかった無念は今も・・)
松尾さんはお父さんが村長をしていました。そんな家でしたから名家でした。
松尾さんは12才頃に盲腸をこじらせ、学校を2年間休みました。
そのため兵役検査では丙種となり、兵士として戦場に行くことにはなりませんでした。当時、兵役に就くことができないことは、日本男子として大きな恥であったと松尾さんは語ります。
(万世で特攻隊員に最後の盃の係りに)
戦地に行くことはなかった松尾さんは、特攻基地で有名な鹿児島県の知覧飛行場や、そしてその近くにできた陸軍の萬世飛行場に配備され、ここで保守や警備にあたります。
やがて、松尾さんは、万世飛行場で特攻に出撃する兵士に最後の盃に酒をつぐという、重要な役目を命じられます。
(出撃する彼らに最後の盃を・・)
松尾さんが特攻隊の酒の係を命じられた時期は、万世飛行場からは、特攻隊が、毎日、出撃したわけではありませんでした。天候や飛行機の整備の具合、そして隊員の状況で出撃日が決まりました。
松尾さんの任務は、これから特攻に向かう兵士達に酒を注ぐことだけであり、会話は禁じられていました。
特攻機が出撃に向けて車輪が回り出す。・・・それは、「特攻で敵艦に体当たりする」あるいは「途中で撃ち落とされる」ということであり、生きて帰ることはない死の世界へのカントダウンが始まるのです。
そう考えると、松尾さんは、今、お酒を注いでいる目の前の人が、これから命を捨てに行く・・・と思い、酒を注ぐ手が震え、何度も酒をこぼしたと言います。

(特攻隊の出撃風景)

特攻に向かう隊員達は、一列に並び、盃に酒を注いだ後に、編隊長が「ただいまから出撃します」と言い、各隊員が自分の名前を名乗ります。
そのあと、全員で一気に酒を飲み干します。

そして敬礼をしたあと、全員が飛行機に乗り込み出撃していきました。
松尾さんはそんな彼らを毎日毎日見送りました。

(青空を舞う純白のハンカチ)

万世飛行場から出撃する特攻隊員が行っていた、一種の行事のようなものがありました。
出撃の時は、整備の人も含めて全員が集まり見送ります。
特攻機は、離陸すると、「今から行くぞ」というしるしに翼を上下に振ります。
飛び立った特攻機は上空でいったん飛行場の方に進路を変えます。そして飛行場の滑走路上空に来たときに、次々と操縦席から白いハンカチを投げ捨てます。
青空に舞う純白のハンカチ・・その光景は綺麗だったそうです。
特攻隊員が投げた白いハンカチの1枚1枚は、お別れの合図であり、感謝の気持ちでもあり、あとを頼むという意味が込められていたであろうと松尾さんは言います。

そうして特攻機は、目印である薩摩半島の南端にある開聞岳を通過し、敵艦がいる目標地、沖縄沖へと向かいました。

(声をかけることも禁じられた)
ある日、松尾さんは、万世飛行場で、まさに今から特攻隊として出撃しようとした幼なじみを偶然見かけます。何度も一緒に遊んだ友達が特攻兵として、まもなく出撃するのです。
酒を飲み終えた彼は飛行機に乗り込みます。
そのとき、松尾さんは、「飛行機が出たらこれで終わりだ」と感じ、思わず飛行機の方に駆け寄ろうとしました。無意識に身体が反応したと言います。

すると、上官から「やめろ!」と怒鳴られ「今から死に行くために特攻機に乗る人間に声をかけるな!彼らの気持ちに水を差すな」とおこられました。
その声に、はっと我に返った松尾さんは立ち止まります。
そんな松尾さんを見た友人は、二コリと笑い飛行機に乗り込みます。
これが松尾さんと彼との間に交わされた最後の無言の会話でした。
そして彼は出撃し戻ってきませんでした。

こうして松尾さんは、半年近く特攻兵に最後の盃に酒を注ぎ出撃を見送りました。

最後に松尾さんの言葉です。
「戦争があったという事は絶対に忘れてはいけない。苦しい戦争があったから、今の平和な時代の幸せがある。不幸で残酷な目に遭ったというその犠牲が肥やしとなって今の時代が来た。だから特攻で亡くなった人たちのことは忘れてはいけない。彼らを弔ってやらなければならない。決して忘れてはいけない。」と・・・。

松尾さんが働いていた陸軍知覧特攻基地および万世特攻基地については下をクリックして御覧下さい